【書評】上村紀夫著「辞める人・ぶら下がる人・潰れる人 さて、どうする?」を読んでみた 【前編】

書籍

自称“プロぶら下がリーマン”のハコフグです。

ワタクシ会社勤めをしていますが、正直なところ会社に貢献しようという気概は、まったくございません。

常に、いかにして困難な業務を回避し、波風立つことなく平穏に一日を過ごせるかを考えて会社に居座っています。

もちろん、仕事で大きな成果を出そうなどといった考えは1mmも無いので、会社に対して昇進や昇給は期待していませんし、待遇が上がらないことに不満を漏らすような事はしていません。

私の会社との付き合いかたは「貰ってる給料分の最低限の仕事はやってやるから、余計な手間を増やしてくれるな。」って感じです。

会社には月々の給料と健康保険・年金をきっちり支払ってもらい、且つ、業務内容は現状維持で、私の都合で辞めるまでぶら下がることを目的に勤め人をしています。

あんまりことわりを入れる必要はないんですが、それでもことわっておくと、私も最初からやる気の無いぶら下がり社員だったわけではありません。

学校を卒業して社会人になった20代や、ある程度思い通りに仕事ができるようになった30代前半ぐらいまでは、結構、熱血で働いていたんですが、会社組織の負の面を目の当たりにする度に、だんだんとバカバカしくなり仕事に対する熱意が下がっていきました。

自分で自分がぶら下がり社員だと自覚していることもあり、本書のタイトルは妙に興味が沸いたので購入。

本書の内容は、経営者や人事労務に従事する人向けなので、工場設備に関係した業務をしている私には、ほぼ関係ないのですが読んでみました。

私の書籍レビューは、なるべくネタバレにならないように書いているので、本書の要約はしていません。

著者の考えの紹介や、それに対する私の考えを書いたり、本書には書かれていない、私の経験上での実例なんかも書いていますので、良ければ最後までお付き合いください。

それでは、本題へ。

著者の上村紀夫氏の経歴と本書の概要

本書の著者は、根っからの経営コンサルってわけではなく、元はお医者さんのようです。

大学の医学部を卒業後、勤務医を経て海外の大学でMBAを取得。コンサルファームを経て株式会社エリクシアという会社を設立。医療・心理・経営の要素を用いた「ココロを扱うコンサルティングファーム」というコンセプトのコンサル会社を経営しています。

本書は、産業医として3000件以上の面談のデータや、1000件以上の企業アンケートで得られた結果をまとめて組織の分析方法や人材の扱い方などを解説した書籍です。

著者が医者ということもあり、他の経営コンサルとは異なり切り口が少し独特な印象です。

巷にあふれる社員をやる気にさせるハウトゥー本とは違い、社員がダメになる経緯を詳細に書いてあるのは、単純に読み物としても面白い。

この本では著者が医者なせいか、会社組織の人材に関わる諸問題「辞める、ぶら下がる、潰れる」を組織の病と表現して話を進めています。

本書は、それら病の発生する原因から対処法について、著者なりの見解を解説している本です。

前半では、組織の病とその伝染を詳しく解説

社員全員が幸福を感じる組織は存在しない

社員全員が満足して幸福に感じている会社など、この世に存在しません。

多数の人が集まる会社では、その集団が好きで満足して働く人もいますが、その反対で不満を持って集団に参加する人も必ず存在します。

著者の主張ですが、私も同感です。

本書後半の内容にも関わるのですが、著者は、この会社に対する満足度を全ての社員で上げるのではなく、パフォーマンスで階層分けし、大切に扱う層と切り捨てる層を解説しています。

その中で、大切に扱うべき層の見分け方や、その層に対して効果的な意識向上の方法などを説明しており、切り捨てる層に対しては、特にケアせず自主的にいなくなってくれるのを期待しようとしています。

会社の工数は有限なので、必要な人材に必要なコストをかけようって事ですね。

私の感想としては、特に目新しい斬新な主張とは感じませんでしたが、建前ではなく本音をずばり書いてるのが潔くて良い。

変にダメ社員をエースに変える!みたいな事を書いてないのが好感持てます。

従業員満足度を上げる施策が基本ダメ

さすがにお医者様が著者だけあって、会社組織の病に関して本書の半分近くを割いています。

組織が病んでいく過程や、病の悪化と伝染。そして、それらの原因と対処方法に関して詳細に語られています。

読んでもらうと、恐らく結構な人が「これ、何ていうウチの会社?」って思うんじゃないですかね。

私の会社も、今は中華肺炎のため開催していませんが、社員の満足度向上を名目に全員参加のスポーツイベントや忘年会があり、正直かなり迷惑しています。

「なんで休み潰してまで会社の連中とボーリングせなアカンねん。」って感じで毎回イラっとしています。当然、ここ何年も会社のイベントには参加していません。

本書では、こういうイベントが逆効果だと言い切っています。まぁ、どこの会社も社員は大して喜んでいないという事らしいです。

もう少し私の話をすると、私の勤め先は、そこそこ大きい会社の子会社で社長は社員よりも親会社や他のグループ会社の偉いさんの顔色ばかり気にしています。

最近は従業員のメンタルヘルスを気にする風潮が強く、私の会社の社長を筆頭に役員連中は、親会社へのアピールのためにイベントを開催しているので、そもそも社員の満足度を意識して開催してる訳ではないんですね。

親会社に対して「私たちはこんなイベントを企画して社員との親睦を深め、グループへの帰属意識を強める努力をしています。」って言いたいだけのイベントなんで、心の底からつまらないし、迷惑千万です。マジでこのまま無くなってほしい。

私の話は特殊な例かもしれませんが、世の会社の人事や総務に関わる人たちの思惑を、まったく無意味と真っ二つにぶった切っています。

痛快。

会社の病について、社員の感情にフォーカス

この著者は、基本的に感情にフォーカスして会社内の人的問題を解説しています。

社員の感情がマイナスに振れないようにするにはどうすればよいか?や、マイナスに振れた場合の戻し方などを重視しています。

この辺のアプローチは、当然と言えば当然の事だと思います。

人間がする仕事なので、気分によって成果物の出来栄えは変わります。嫌々やってるのに誰もが納得するような仕事をやってのける人間は極めて少数でしょう。

なので、いかに社員の感情をプラス側に持っていくかは一般的な見解だと思います。

本書では、社員の感情がマイナス側に振れていく例をいくつか挙げていたり、それぞれの対処に関して説明していますが、私の実感としては、いまひとつピンと来ません。

どうも、どのケースも妙に綺麗というか、会社側も社員側も前向きな考えと行動が根本にあって、それぞれの食い違いから社員側の感情がマイナスに振れてるんですよね。

問題点としている部分が同じで、本書の例と私の実体験を比較してみます。

例①上司の過干渉が原因で社員の感情がマイナスになるケース

上司の指示が細かすぎて社員がやる気を失うのは、よく聞く気がします。

本書では、上司が部下に対して仕事を任せたのに、細かい進め方や、あらゆる内容に対して具体的に指示していたことから、部下がやる気を無くすというケースです。

本書の内容を読む限りでは、上司はより良い成果を上げるために部下を指導しながら業務を進めたいと考えているみたいですが、部下側はあまりにも細かく作業内容を指示されるため圧迫感を感じてやる気を失ったとあります。

部下側の心境を慮ると、自分はまだ未熟だと思われていて仕事を任せてもらえないんだと感じたのもあるのではないでしょうか?

この内容であれば、どちらにも悪意は無く上司側も部下側も前向きな感情が食い違ってしまい、結果として部下側がくじけた感じだと思います。

私がサラリーマンをしていて経験した過干渉のケースは、上記とは異なり上司側に問題があるケースでした。

上司側の考えや行動がガチガチに凝り固まっていて融通が利かず、且つ、自分の考えは絶対に正しいと思い込んでいるのです。

そのため上司は部下を、ただのオペレータか自分の手足の代わりぐらいにしか考えておらず、上司自身の考えに100%沿った成果物を作らせようとします。

そんな人物の下で仕事をする場合、ある程度自分の考えや意見のある人間にとっては非常に働きにくく、面倒です。

また“自分の考えは絶対に正しい”と考えている人間はやっかいで、成功したら必要以上に自分をアピールしますが、失敗しても認めません。

それどころか失敗した場合は、実務をやった部下が原因と吹聴してまわる上に、部下に指示した内容すら後から平気で改ざんします。

自分が指示したやり方ではないと言ってまわるんですよね。

立場的に弱い部下にとっては、上司が失敗の原因を部下だと言いふらしていたとしても、言いふらす先が部門長や役員と言った上級職の場合、なかなか自力では真相を話して誤解を解くこともできず、悪い印象だけが残ってしまい、結果として部下側がやる気を無くしてしまいます。

この場合は、意固地な上司をどこか別部署に飛ばすか、更に上位の偉いさんの前で言い逃れ出来ないぐらい打ちのめすぐらいしないと、やる気を失った部下は、どんどんモチベーションが下がります。

未然に防ぐのも難しいと思いますが、著者はこんな場合どう処置するのが最善と考えてるのか聞いてみたいですね。

ちなみに、この実体験談は私自身が被害者になったことはないですが、前の会社でも、今の会社でも同じような事例を目の当たりにしました。

恐らく、結構一般的にどこでも起こってる事例だと思います。

どうなんですかね?上村先生。

例②働き方改革に伴う残業時間削減に起因するマイナス感情のケース

二つめの私の実体験談との比較は、残業規制がらみです。

本書の例では、自分の仕事の完成度をできる限り高めたいと思って時間を忘れて熱心に取り組んでいた人が、残業規制を受けて納得いくまで仕事が出来なくなったことでやる気を失ったと書いています。

このケースを私は見たことがありません。さすがに、そんな人いないとは言いませんがレアケースなのではないでしょうか?

残業規制後に文句タラタラ言ってる連中は、大抵が生活残業ができなくなった事に不満を持ってしまい、やる気を失っています。

世の中一般的には、残業は社員にとって苦行とされていますが、そうでも無く自分から会社に遅くまで残っている人も一定数います。

カツカツの納期に追われ時間と戦う残業であれば、大抵の人が苦痛でしょうが、特に追われるものが無く、だらだらと時間だけを過ごしていれば良いだけの残業であれば進んで居残る連中です。

私が今まで見てきた生活残業をダラダラやってる連中は、ほぼ例外なく仕事ができません。1日で終わる仕事を3日も4日もかけてしまい、出てきた成果も不十分なモノというケースがほとんどです。

この生活残業を進んでやってる連中は、仕事に対する考え方が根本的に世間一般のサラリーマンと異なり“必要な成果を必要なタイミングで出す”とか“会社に利益をもたらす”という発想が乏しく“何時間会社に居たか”と“いくらの残業代を貰ったか”が仕事をする動機になっています。

生活残業を多くしていた連中は、往々にして残業時間数だけを上司や他の同僚に対して武勇伝のように話し“自分は頑張ってる”“自分は大変だ”と自慢します。

更に残業代がいくらになるかも生活残業者たちには重要で、小まめに残業時間数を確認して手取りの金額を計算しています。

残業規制を受け、以前ほど自由に残業できなくなることで周囲に対する自慢話ができなくなり、その上手取りの給料も減るためやる気を無くし会社に対する文句ばっかり言うようになります。

この生活残業者たちは、残業した時間数が多ければ多いほど自分は頑張っていると信じて疑わず、さらには手取りの給料も増えるので、自分の考えが根本的に間違っていると気づきません。

私も大昔に、今の会社の残業が多い若手に「仕事ができる人間っていうのは、自分の仕事に遅れや不足を出さずに定時で帰れる人間の事やぞ」と、前の会社でその時の上司に言われた言葉を言ってみたことがあります。

それを聞いた若手の子は、反論こそしませんでしたが同調もせず自分には当てはまらない話だなって感じで聞いていました。

言わんとしている事が理解できていないので、当然、残業を減らそうとはしませんでした。

こういうケースは、上村先生に聞くまでもなく、ぶら下がる社員より質が悪いので、早々に退職してもらうのが正解だと思います。

ホント、こんな奴いらん。

会社に対するマイナスの感情は、社員間で伝染する

少し話が反れた気がしますが、本書では、会社の病の伝染について色々な伝染経路を例を挙げて解説しています。

ここで全部紹介するのは無理ですが、会社の病の伝染経路に関しては、私の実体験が載っていません。

また、やはり病の伝染についても綺麗なケースが多く、私が体験したモノとはかけ離れています。

本書の内容は省略して、私が体験した社員のやる気低下とその伝染の実例を紹介して、【前編】は終わりにしたいと思います。

私の経験したやる気低下の実例は、要点だけ話すと上司が仕事の価値を正しく評価できない事による過少評価です。

数年前に退職したおじいちゃん課長の話ですが、とても真面目で寡黙な方で仕事の内容としても、生産工場の運営において非常に貢献度の高い仕事をしていました。

このおじいちゃん課長が居る事で、会社はかなりの生産現場における損失やコストの削減と、利益の確保が出来ていたのです。

それにも関わらず、おじいちゃん課長が定年となり延長雇用となった際に、会社は役職のはく奪と給与の大幅カットでの雇用としました。

私の会社では延長雇用は2つのパターンがあり、一つは上記した平社員に落とされ給料も40%カットになるケースです。もう一つは、役職、給与そのままで65歳まで延長して雇用する形態です。

私の会社では延長雇用の前例が、まだあまり多くないので前者と後者のパターンの選択に確たる規定が無く、個別に社長や役員連中が判断して雇用形態を決めます。

社長や役員連中が判断する際に、所属していた部署の部長が説明しますが、残念ながら上司である部長自体が、このおじいちゃん課長のこれまでの成果がどれほど貴重であったかが理解できておらず、そんな何も分かっていない部長が、社長や役員に説明したので、当然、社長たちも重要度が理解できず、この処遇となりました。

この一件は、私のみならず、このおじいちゃん課長をよく知る人全員に「この会社では、会社の為を思って一生懸命仕事しても無駄だ」と思わせてくれました。

この一件だけが原因ではないですが、私は、これまで溜りに溜まった不満が押さえきれなくなり、会社へ貢献しようという意思は一切無くなり、いつか退職するまでの腰かけという感覚に変わりました。

ただの腰かけでしかない会社なので必要以上の仕事はせず、なるべく定時で帰るようにし、資格試験の勉強などの自己投資に時間を割くぶら下がり社員になりました。

このおじいちゃん課長の実例を元にした病は、かなりのスピードで広範囲へ伝染していき、私のような会社に不信感を持つ人間を大量に生み出しました。

私の実体験をお話しましたが、この会社側の適切でない評価を下した前例は、相当なインパクトがあり、本書でも取り扱ってほしかったと思っています。

恐らく、特殊なケースではなく、この一例もいろんな会社で見聞きする事例ではないでしょうか?

まとめ

社員がやる気を無くして会社内で機能しなくなるメカニズムに関して解説している本書ですが、個人的な感想としては、実態はもっと人間の質の問題だったりと、本書の例よりもっと低レベルな感じじゃないかと思います。

今回も予想外に長くなってしまったので、前後編に分けて感想文を投稿する事にしました。

本書後半の内容は、別記事で投稿する予定ですが内容より私の考え中心の記事になりますが、良ければまた見に来てください。

じゃ、そんな感じでノシ

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