今回は、前回の続きで、森岡毅著「苦しかったときの話をしようか」の感想文の後編です。
前編がまだ未読の方は、下記リンクからどうぞ。
本書は、ゴリゴリの熱血ビジネスマンの仕事術を綴った書籍で、まだ少し昭和な雰囲気の残る内容です。
自己実現に貪欲な著者の熱意が、少しでも伝わるようにネタバレにならない程度に紹介してみようと思います。
それでは、本題へ。
著者の考える「働くことの本質」とは
本書序盤で著者は、「人間は生まれながらに平等ではない」と断言しています。
なかなか過激な表現で、誤解を生じないように解説すると、人権などの社会的な権利は法の下に平等ですが、生まれ持った特徴は千差万別で平等ではないとの主張です。
この意見に異を唱える人はいないでしょうね。私もまったく同意見です。
で、生まれ持った特徴の中で著者がフォーカスしてる能力が“知力”です。
かなりざっくり言い換えると、私は、頭の良し悪しがビジネスマンとしての成否を左右するというのが、著者の見解だと解釈しています。
本書を読んだ私の感想は、著者の“働くことの本質”とは、“知力をフル活用して成功する事”のように感じました。
世間では東大生の親は高収入が多く、家庭の世帯収入の差が、子供の学歴に差を与えていると言われていますが、著者の主張は、親の収入が高いのは、親自身が高学歴、つまり知力が高く、更に知力の高い男女が結ばれてできた子供だから、先天的に知力が高く、結果東大に行くとしており、子供の学力の差は、家庭の財力が主要因ではないとしています。
著者は、「経済格差は、知力の差がもたらした結果だ」と結論付けています。
付け加えて、個人の知力は、先天的に差があり、その差こそが現代で最も残酷な格差であるとも書いています。
この意見も、反論の余地がありません。
著者の示すビジネスマンとしての勝ち筋は、知力に差があるのは当然として、重要なのは自分の知力の性質を正しく把握し、好きな事や得意な事などの勝てる見込みの高い土俵で常に努力を怠らず戦えって事みたいです。
いやはや、なんとも合理的でストイック。
現代の侍ですね。
侍になれないド田舎のサラリーマンの思う事
著者の主張は、無理筋な話がなく、どの章の話題も納得感を持ちながら読む事ができました。読みながら気づきもあり、たくさんの社会人にとって有益な内容だと思います。
ですが、私の経験した“働くことの本質”は著者の主張と異なります。
著者の“働くことの本質”が“知力をフル活用して成功する事”と解釈しましたが、仕事で成功するのに自助努力だけでは、どうにもならないと私は思っています。
私が17年社会人をしていて何度も経験しましたが、自分の能力を磨き、成果を上げても昇進・昇給といった成功に繋がらない事もしばしばあります。
私以外にも、そんな人を何人も見てきました。
逆に大した能力もなく、十分な成果を上げていないのに、トントン拍子で出世していく人も何人も見てきました。
著者の主張と逆パターンです。
では、なぜ無能な人間が順調に出世するのかというと、出世する人間は、だいたい“人たらし”です。
これこそが仕事で成功する最も重要な要素だと私は思っています。
google先生に“人たらし”を質問してみると、「人の心を掴むのがうまく、不思議に多くの人を引き付ける人のことをいいます」と出てきます。
つまり他人に気に入られやすい人の事ですね。
会社組織の中で、出世欲のある人たらしな性格の人は、何よりも人事権のある人物(課長や部長といった上級職)に取り入られる事を優先して行動します。
仕事上での接点を大事にするばかりでなく、上司と部下といった会社内の関係を超えてプライベートで飲みに行ったりして親交を深め、権力を持ったタニマチを作ることに情熱を注ぎます。
その結果、人たらしの人の出す成果物は、大したモノでもないのに上司が必要以上に評価し、逆に人たらしの人が失敗した場合は、どんなに深刻な失敗であっても大事にならないように処理してしまいます。
上級職の人間が機械的に、部下の仕事の能力と成果のみを評価し、その中で会社への貢献度合いの高い人物を選択して昇進させるのであれば、こんな現象はおこりませんが、上司も人間であり、完全に会社の利益のみを追求して物事を考えているわけではないので、上司自身の個人的な好みが、こと人事に関しては大きく影響します。
その結果、人たらしの人は、仕事に必要な能力を磨くことなく、大した成果を出すこともなく出世していくのです。
更に、この能力不足にも関わらず上級職に就いた人たらしな人が、今度は自分のお気に入りを同じように引き上げてしまうため、このお気に入り人事のループは途切れることがありません。
そもそも“人たらし”という能力だけで出世した人間は、十分な仕事の能力が備わっていないので、上級職になって部下の仕事を査定する側になっても、どの部下に能力があり、また成果を出しているかが分かりません。
大した能力のない人間は、高尚な成果を見せられても理解できないのです。
この現象は、会社の規模の大小に関わらずどこも同じだと思っています。
程度の差はあるかもしれませんが。
私自身、前の会社も今の会社も、こんな人間が必ず一定数居てうんざりしています。
ちなみに私は、人と仲良くなるのが苦手なので、出世は、ほぼほぼ諦めてます。
人たらしが効果的なのはサラリーマンだけじゃない
この“人たらし”の能力は、サラリーマンだけではなく、自営業者なんかでも、かなり有利に働きます。
実例として、私が親から生前贈与で土地と家を相続した際にお世話になった行政書士の先生がいます。
その行政書士は、親が懇意にしていた方なんですが、私の母は「男前で感じのいい先生よ」と言って紹介してくれました。
どうやら母は、仕事の能力より、人柄を気に入って仕事を依頼していたようです。
もちろん行政書士としての仕事の能力もあっての事で、ここがサラリーマンと異なる点ではありますが、同じような仕事の能力であれば、消費者は人柄で決定してしまいます。
他にも、私の今の会社で上司だった人物が、定年前に中小企業診断士という資格を取得して独立しました。
その人は、お世辞にも仕事の能力が高いとは言えず、中小企業診断士という会社経営のコンサルタント業ができそうには、私にはとても思えませんでした。
ですが、実際はとても繁盛しているようで、たくさんの中小企業の社長さんに気に入られて、ひっきりなしに仕事をもらっているようです。
この上司は、とても気さくな人物で、人当たりがよく温厚な性格の人でした。表立って他人に嫌悪感を見せたりせず、嫌みを言われても、その場では素直に頭を下げるような人徳の人でした。
私の予想では、この人も人柄で仕事を得ているのだろうと思います。
自営業者こそ、自分を好意的に思ってくれる人が必要で、“人たらし”であればあるほど、有利になるのです。
本書の著者である森岡毅氏は、恐らく稀代の“人たらし”でもあるのではないでしょうか?
森岡氏の著書は、まだこの一冊しか読んでいませんが、それでも家族思いで実直な人物といった印象を持っています。
そんな人柄で、且つ仕事の能力が高く、情熱的であれば自然と人を周りに集めることができるんでしょうね。
私のイメージでは、森岡氏は“上昇志向の強いビジネスマンたらし”といった感じでしょうか。
本書で最も重要だと感じた内容
ここからは私が個人的に、最も重要だと感じた部分に関して少し紹介します。
本書では、自分自身をブランド化する方法を解説していますが、その中で“RTB”という言葉が出てきます。
RTBとはReason to believeの略で、直訳すると“信じられる理由”でしょうか。
これは、本書内では、面接などを受ける側の実績を客観的に証明するモノとして説明されています。
このRTBは、就職活動では非常に重要で、RTBを持っている方が遥かに有利になります。
例えば、英語なんかがわかり易いですが、下の①と②のどちらが信用度が高いかという話です。
①英語は学生時代から得意で、日常会話ぐらいなら可能です。
②英語は学生時代から得意で、TOEICで800点以上取得できます。
どう考えてもTOEIC800点というRTBが有る方が信用度が高いですよね。
私の身近でも、履歴書に嘘を書いて入社して来た人物や、限度を超えて誇張して転職していった人物が実際にいます。
入社して来た人は、早稲田大学を卒業して、電気主任技術者とエネルギー管理士の資格を持っているのを売りに中途で入社してきましたが、免状をいつまでたっても提出してきませんでした。その人の上司が何度も提出しろと要求したんですが、あれこれ理由を付けて先延ばしにし続けた結果、1年ほどで退職してしまいました。
確証は無いですが、資格をもっていなかったんでしょうね。
もう一人の転職していった人物は、生産現場の作業員だったんですが、転職の面接の際に、生産現場の生産性向上や品質向上業務を行っており、英語も受けたことは無いがTOEICなら800ぐらい取れると言って転職していきました。
ちなみにその人物は、英語は全く喋れず、TOEICも実際に受けたら300点ぐらいだったようです。
転職先がグループ会社だったので、色々情報が入ってきていましたが、転職後の配属先が海外向けの品質保証部門だったようで、主な仕事相手が外人。更には製品の品質管理に関わる業務と、前職からかけ離れた仕事内容で、まったくついていけず半年と経たずに別部署へ移動となり、昨年、4年程務めたところで、また転職してしまいました。
面接を受ける側の歯止めとしても、このRTBを意識することは重要です。
このRTB(信じられる理由)を持つというのは、当たり前と言えば当たり前なんですが、それでも本書の内容で最も重要なのではないかと思います。
まとめ
今回は後編という事で本書の内容より、私の考えに偏重した記事にしてみました。
著者の森岡氏は、主張する内容がとても腑に落ちるモノが多く、他の書籍も読んでみたいと思っています。
差し当ってUSJ再編に絡んだ書籍を読んでみようと思ってます。
私自身は、そこまで上昇志向は強くないですが、それでも今より未来を明るくしたいと常に思っているので、森岡氏の著書を読んで、森岡氏の10分の1でもバイタリティーを分けてもらいたいと思います。
前後編と長くなりましたが、森岡毅著「苦しかったときの話をしようか」の紹介はこの辺で。
じゃ、そんな感じでノシ